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こんな時期になると爬虫類は冬眠を始めるというのに、爬虫類の様に、いや爬虫類以上に凶暴な涼宮ハルヒは元気が有り余っているらしく今日も不思議探索で足を軽やかに 運ばせている。 なんで哺乳類は恒温動物になったんだろうね。爬虫類のように変温動物だったらこの寒い外を出歩かず家の中でずっと眠っていられるのに。 それにしても本当にこの時期になると寒くなってくる。ここらへんの地域は時々雪は降るとはいえ積もりはしないため東北地方とかに比べるとまだマシかもしれないが、そ れでも生まれから育ちまでここの俺にとっちゃ沖縄にでも行かない限り寒いと言う感情は捨てきれないだろうね。 軽やかなステップで先を行くハルヒを前に俺ともう一人、柊つかさもさぞ寒そうにポケットからカイロを取り出し手袋越しに寒さを凌いでいるのが見える。 「今日はまた一段と冷えたね~、キョン君」 白い息を空に撒き、その行き先を眺めながら俺にそう言うつかさ。 「そうだな」 と相槌を打ち、俺もつかさの吐いた白い息の行き先を見る。 白い息が完全に消えつかさの方を見ると、つかさはじっと俺の方を見つめていた。 ピンクのボンボン付きのニット帽にマフラーと言う可愛らしい完全防備の服装である。 かくいう俺は帽子もマフラーもしておらず、防寒具といえばコートと手袋、それからポケットに忍ばせてある貼らないカイロぐらいである。 帽子は似合わないしマフラーもあるにはあったのだが、以前シャミによって無残な姿になってしまった為、今はもう使い物にならない。 そんなことよりも俺はさっきからじっと見つめてくるつかさが気になるわけで。 「どうした?」 「はうぅ!な、何でもないよ」 俺が不思議そうに尋ねると急に我に帰り慌てふためくつかさ。 「本当か?」 俺が問いただすと、 「あ、えっと……その」 とつかさは答えを渋らせる。 そして何か次の言葉をつかさが発しようとしたところで、 「何してんのよ。さっさと来なさい!」 といつの間にかはるか五十メートルほど前にいる団長様の号令によりその会話はあえなく終了となった。 次の日の放課後の活動からつかさに変化が表れる。 普段ならかがみや高良、朝比奈さんと会話をしたり、ボーっとしたりしていたのだがここ最近はずっとせっせと指を動かし何かを編んでいる。 必死に本を見ながら作っており、分からない所は所々朝比奈さんに聞いたりして再び編み続けているのだ。 恐らくマフラーかミトンなのだろう。だがつかさは両方持っていたし、誰かに上げる物なのだろうかね。 はて、つかさも一端の恋でもしたのだろうか。 そんなつかさを見て俺もマフラーを買わねばならんなと思った。 以前言ったとおり俺の前のマフラーはシャミの所有物となってしまったわけだし、この時期になるとマフラーがないと首元が寒くてやってられんからな。 「どうしました?」 そんなことを考えていると俺の前方から古泉が声をかける。 「いや、なんでもない」 そう言って古泉から奪い取った飛車を敵陣の中心部に置く。 「王手だ」 そう言いながら俺は天井を仰いだ。 古泉は将棋盤をじっと見つめながら、 「投了ですね」 と微笑みながら言った。 やれやれ、古泉はいつまで経っても強くならんな。 「こう見えても努力はしているのですが」 「その努力は結果となって表れていないがな」 そう言うと古泉は肩をすくめて言った。 「全くです」 また別の日俺は念願のマフラーをようやく購入し、学校へと着けていった。 あの長い長い坂を寒いながらも上りながら校門をくぐり、下駄箱へと向かう。 「あっ、キョン君」 と後ろから声がし、振り向くとそこにはつかさがいた。 「つかさか。おはよう」 「うん。おはよう」 そう言ってつかさは笑顔を見せたかと思うと、今度は少し俺の方をまじまじと見て、 「マフラー買ったんだ」 と訊いてきた。 「ああ、流石にこの時期に無いと厳しいからな」 「そうだよね」 つかさの方を見るとなぜかつかさは悲しそうな表情を浮かべていた。 「どうした?」 そうつかさに尋ねるとつかさは笑顔を作り、 「な、なんでもないよ」 と言って走って下駄箱を抜け教室へと向かっていった。 一体どうしたというのだろうか。 その日の活動から、つかさは編み物をしなくなった。 別に完成したわけでもなく、俺の記憶ではそろそろ仕上げといった所だったのに何故だろうか。 それだけではない。つかさがずっと落ち込んでいるように感じるのだ。 ボーっとする事なら多々あったが、これほどまでに落ち込んでいるのは珍しい。 やはり、何かあったのだろうか。 気にはなるのだが、尋ねようがない。見たところ泉や高良も原因が分かってなさそうだし、もはやお手上げ状態である。 「ちょっとキョン君」 肩をとんとんと叩かれ、かがみが俺に耳打ちをしてくる。 「活動が終わったら少し付き合って」 「何でだ?」 「いいから」 かがみなら何か知っているかもしれない。そう思い俺は快く了承をした。 活動終了後、かがみは泉たちを先に帰らせ部室には俺とかがみだけとなった。 なんか、女子と二人きりで学校にいるというのは朝倉の事やらあの忌々しい事件やらであまり良い思い出がないな。 「で、何のようだ?」 俺は帰り支度を済ませ、泉たちを見送りドアをパタンと閉じたかがみにそう尋ねた。 「うん。つかさの事なんだけど……」 「つかさの事か。最近おかしいと思うんだが、お前は何か知らないのか?」 「私がそれを聞いてるのよ」 「生憎だが、俺にもわからん」 その言葉を聴いたかがみはハァと溜息をつき、 「キョン君でも分からないならお手上げね」 と言った。 どういう意味だそれ。 その後俺とかがみはつかさに元気が無い理由を考えた。 するとかがみは俺を見て、こう言った。 「あんた、マフラー買ったの?」 「ああ。寒いもんでな」 その言葉に対し、かがみはまたしても溜息をつく。 「はあ、ようやく原因が分かったわ」 分かったってどういう意味だ?俺のマフラーが何か関係しているのか? かがみはあきれ返ったように俺に説明を始めた。 「あんた、つかさが前まで何してたか知ってるわよね?」 「何か編み物をしていたな。だがここ最近は編んでいる様子がないが」 「あれはね、マフラーを編んでたのよ」 マフラー? 「それまた何故だ」 かがみはまだ意味を理解できていない俺に対し、本日三度目の溜息をつく。 「これだけ言ってもわからないのね。相当鈍いわよ」 好きで鈍いわけじゃない。分からないものは仕方がないだろう。 「つかさは、あんたのためにマフラーを編んでたの」 俺の中にハテナマークが量産され始める。 「俺のために?何故だ?」 「ちょっとは自分で考えようとしなさいよ」 つかさが俺のためにマフラーを編んでいた。いつ編もうと考えた? この前の不思議探索の時か。 あの時マフラーをしていなかった俺に対してつかさは編もうと考えたわけか。 理由はわかったが、なぜ俺がマフラーをつけてきただけであれ程までに落ち込んだんだ。 そのマフラーを自分用のためにでも作り直せばいいのに。 「そんなの、ちょっと考えればわかるでしょ」 みかねたかがみが話を再開し始める。 「あんたが好きなのよ」 俺のことが……? 「そ、あんたの事が。この前何で編んでるのか訊いてみたのよ。そしたら『キョン君のために』って顔を高潮させながら言うんだもん」 それだけじゃ俺のこと好きと言う事には直結しないぞ。 「あの時のつかさの顔は面白いぐらい乙女だったわ。からかってやろうかとも思ったけど、あんなに真剣なつかさは見たことが無かったから、やめといたわ」 そんなに一生懸命編んでいたのか? 「それぐらいあんたの事本気なのよ」 そういった後かがみは鞄を持ち、 「これを聞いてどうするかはキョン君次第よ。振るのもよし、付き合うのもよし」 ドアの前まで行き振り向きながら、 「けど私としてはつかさを落ち込ませないでほしいけどね」 と言葉を残してかがみは部室を出て行った。 落ち込ませないでほしい、か。そうなったら選択肢は一択じゃないか。 そう思いながら俺は部室の鍵を手に取り、部室を後にした。 次の日の放課後、俺は部室に行く前に教室につかさを呼び出した。 未だに元気が無いつかさに俺は自分の持っていたマフラーを差し出した。 「どうしたの?」 理解できていないつかさに俺は、 「そのマフラー、やるよ」 とだけ答える。 「いいよ、別に自分のあるから」 「だったら、俺はこのマフラーを捨てる」 そう言うとつかさは驚き、 「そ、そんなことしたらキョン君のマフラーが無くなっちゃうよ」 と言った。 「つかさは俺のためにマフラーを編んでくれてたんだってな」 俺がそう言うと慌てていたつかさの表情が一変し、赤くなり、 「うん……」 と縦に頷きながら言った。 「悪かったな。そんなことに気づかずに自分でマフラーを買っちまって」 「そんな事無いよ」 俺は持っているマフラーをグイとつかさに近づける。 「だから俺はこのマフラーをつかさに渡す。それで、つかさは俺にマフラーを編んで欲しいんだ」 少しわがまますぎたか。そう思い、俺はマフラーを自分の方へ戻そうとした瞬間、つかさが俺のマフラーを掴んだ。 「これってプロポーズ?」 上目遣いで尋ねてくるつかさ。 「ま、まあそうなるのかな」 その言葉を聞くと、つかさは朝比奈さん以上のスマイルを放ち、 「こちらこそ、よろしくお願いします」 と言った。 数日後、俺は白いマフラーをつけ、学校に登校する。 つかさから作ってもらったものであり、シャミにボロボロにされないよう大事に保管している。 同じくつかさも、マフラーをつけて登校している。 だが、そのマフラーは俺の渡したマフラーではなく、つかさの手編みマフラーなのだ。 つかさ曰く「お揃いが良い」との事らしい。俺もその方が良いしな。 今は人間が恒温動物であったことを嬉しく思いながら、俺は白いマフラーをつけ急な坂道を上って行く。作品の感想はこちらにどうぞ
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すれ違い通信 人数情報(Passing-each-other communication Number information ) 実施日時 7/15 7/16 7/17 7/18 7/19 7/20 7/21 7/22 7/23 7/24 7/25 7/26 7/27 7/28 すれ違いMii広場 95人 9人 8人 6人 トモコレ新生活 64人 2人 0人 1人 3dsサウンド 10人 0人 0人 0人 調整中 調整中 調整中 調整中
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お宝探し(非同期マルチプレイ) 小迷宮エディット コメント欄 お宝探し(非同期マルチプレイ) 某オデッセイの風船探しみたいなのを迷宮内で遊ぶ。 SQⅣでいう秘宝探しみたいなの。 プレイヤーが迷宮の好きな階、好きな場所にお宝を隠して、 他のプレイヤーがそれを探して遊ぶ。 すれ違い通信、QRコード、ギルドカード、どちらでも良し。 隠すお宝は装備アイテムやグリモア、なんでも良し。換金アイテムやレアドロップもいいかも。 隠す側がメッセージでヒントを与えるのもアリ。 小迷宮エディット コメント欄 名前
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アーティスト:T-BOLAN レベル:2 登場回数:2(レギュラー版第13回、第25回) 挑戦結果 浅岡雄也:成功(レギュラー版第13回)
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一 俺がそれについて認識する以前より、実際の所は俺以外の人間はみなそうだと認識していたようだ。 俺はその事について確たる証拠は持っていなかった。自信だけが先走って、思い込みに走っていただけにすぎないのだ。 若さゆえの過ちではすまさない。罪である。罰を伴う罪である。 その事を説明するにあたって、遠回りな言い回しや、小難しい形容詞などは必要無いはずだ。 無いのは自信だけだ。 今の透き通った視界なら、見えないものはない。盲目だったのだ。 砕かれた自信が再び治る事は無い。安易な過信が自信を崩し、崩れた自信が俺を崩した。 盲目の人間が突っ走り、自ら硬い壁に突き当たり怪我をしたというだけだ。 ああ、馬鹿ものさ。涙も涸れるほどの、馬鹿ものさ。 「もう、だめだな」 こうしている間にも時は流れ続け、傷口は開いてゆく。時も見放した癒えぬ傷だ。 自己憐憫に陥った事による自己嫌悪さえもわかない。末期だ。 するりと回された腕は暖かかった。 1 その事を今、分析する事はいくらでも出来るだろう。 それは自分の事なのだから、容易に決まっている。 動機にしても、その時の思考も、全て思い出し分析する事は容易なんだよ。 繰り返すようだけど、自分の事を自分以上に知ってる人間はいないからね。 だからこそ、自分を縛り付ける人間は自分以外の誰にもいないんだ。 厄介な機能だと思うが、僕は人間の持っている機能で一番慎ましいものだと思っててね、嫌いにはなれない。 だから僕は君の事を嫌いにはならないよ。哀れにも思わない。 君も言っている通り、なんら難しいことは必要ない。 「残念だったな」 それだけさ。 本来ならそれだけで済む事なんだ。君が悔やんだってしょうがないし、何より意味がない。 きりがないんだよ。 だから、誤魔化してしまえばいいんだ。 二 妄想がこびりついた体じゃあ誤魔化すこともままならないさ。 2 妄想? 妄執だね。過去への妄執なんてものほど非生産的なものはない。 自己満足を得られたとしても、時間が経ちすぎたろう。もう、目を背けてしまえばいいんだよ。 君にとって、それが価値ある事だとしよう。 しかし、現実問題それはもう目を背ける事しか出来ないんだよ。 君が経てきた数多くの出来事のように、一つの過去としておけばいいんだ。 そんな簡単な事さえも許さないのは君のなんなんだ? 罪悪感なんて高潔なものじゃないよ。 プライドさ。 それさえ、という安っぽいプライドが君を邪魔して、貶めているんだ。 「無意味だよ」 三 「そうかもしれないな」 3 簡単に認めるのもプライドを守るための手段でしかない。君は何も納得しようとしていないよ。 綺麗な思いを守るためだけに自分を汚している。状況は悪化する一方なんだよ。 虚構だったと思えばいいんだ。 虚構の中で生きる人間にどれだけの価値と意味がある? 何も無いんだよ。消えてしまうものは数あれど、生まれる物は何一つ無い。 君は記憶を手で掴むことが出来ない。抱くことも出来ない。 記憶という虚構は綺麗なだけで奥行きも温もりもないんだ。 自分の作り出した空想の一部になるだけなんだ。 わかるかい。今君は空想の中で生きているんだ。 もう、十分生きたろう。 そろそろ、死ねよ。 四 死にたくない。 4 なあに、僕も死のうと思っていたところだ。一人よりかは心細くは無いはずだ。 死に時を計らうのは死に場所を探すよりも大変だ。だが、僕は今が無難だと考えるよ。 ベストな時期なんて、無いからね。思い立ったときがどんなに最悪の状況だったとしても、最悪な時期はないんだ。 最初から自信のある人間なんていないさ。崩れても積みなおせば良い。時間はそのためにある。 でもこのままじゃ時間はなくなる一方だ。 さぁ、早く死のう。死んだら楽になれるんだ。 いや、むしろ頼むんだ。 君が死んでくれれば、その虚構に生きてた僕も死ぬんだ。 一歩踏み出した先が崖であっても、どんなに傷ついても、最後には地面が受け止めてくれるから落ち続ける事なんてない。 二人なら、庇いあう事だって出来る。 キョン。君と死ねるなら僕は本望さ。 決
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一 俺がそれについて認識する以前より、実際の所は俺以外の人間はみなそうだと認識していたようだ。 俺はその事について確たる証拠は持っていなかった。自信だけが先走って、思い込みに走っていただけにすぎないのだ。 若さゆえの過ちではすまさない。罪である。罰を伴う罪である。 その事を説明するにあたって、遠回りな言い回しや、小難しい形容詞などは必要無いはずだ。 無いのは自信だけだ。 今の透き通った視界なら、見えないものはない。盲目だったのだ。 砕かれた自信が再び治る事は無い。安易な過信が自信を崩し、崩れた自信が俺を崩した。 盲目の人間が突っ走り、自ら硬い壁に突き当たり怪我をしたというだけだ。 ああ、馬鹿ものさ。涙も涸れるほどの、馬鹿ものさ。 「もう、だめだな」 こうしている間にも時は流れ続け、傷口は開いてゆく。時も見放した癒えぬ傷だ。 自己憐憫に陥った事による自己嫌悪さえもわかない。末期だ。 するりと回された腕は暖かかった。 1 その事を今、分析する事はいくらでも出来るだろう。 それは自分の事なのだから、容易に決まっている。 動機にしても、その時の思考も、全て思い出し分析する事は容易なんだよ。 繰り返すようだけど、自分の事を自分以上に知ってる人間はいないからね。 だからこそ、自分を縛り付ける人間は自分以外の誰にもいないんだ。 厄介な機能だと思うが、僕は人間の持っている機能で一番慎ましいものだと思っててね、嫌いにはなれない。 だから僕は君の事を嫌いにはならないよ。哀れにも思わない。 君も言っている通り、なんら難しいことは必要ない。 「残念だったな」 それだけさ。 本来ならそれだけで済む事なんだ。君が悔やんだってしょうがないし、何より意味がない。 きりがないんだよ。 だから、誤魔化してしまえばいいんだ。 二 妄想がこびりついた体じゃあ誤魔化すこともままならないさ。 2 妄想? 妄執だね。過去への妄執なんてものほど非生産的なものはない。 自己満足を得られたとしても、時間が経ちすぎたろう。もう、目を背けてしまえばいいんだよ。 君にとって、それが価値ある事だとしよう。 しかし、現実問題それはもう目を背ける事しか出来ないんだよ。 君が経てきた数多くの出来事のように、一つの過去としておけばいいんだ。 そんな簡単な事さえも許さないのは君のなんなんだ? 罪悪感なんて高潔なものじゃないよ。 プライドさ。 それさえ、という安っぽいプライドが君を邪魔して、貶めているんだ。 「無意味だよ」 三 「そうかもしれないな」 3 簡単に認めるのもプライドを守るための手段でしかない。君は何も納得しようとしていないよ。 綺麗な思いを守るためだけに自分を汚している。状況は悪化する一方なんだよ。 虚構だったと思えばいいんだ。 虚構の中で生きる人間にどれだけの価値と意味がある? 何も無いんだよ。消えてしまうものは数あれど、生まれる物は何一つ無い。 君は記憶を手で掴むことが出来ない。抱くことも出来ない。 記憶という虚構は綺麗なだけで奥行きも温もりもないんだ。 自分の作り出した空想の一部になるだけなんだ。 わかるかい。今君は空想の中で生きているんだ。 もう、十分生きたろう。 そろそろ、死ねよ。 四 死にたくない。 4 なあに、僕も死のうと思っていたところだ。一人よりかは心細くは無いはずだ。 死に時を計らうのは死に場所を探すよりも大変だ。だが、僕は今が無難だと考えるよ。 ベストな時期なんて、無いからね。思い立ったときがどんなに最悪の状況だったとしても、最悪な時期はないんだ。 最初から自信のある人間なんていないさ。崩れても積みなおせば良い。時間はそのためにある。 でもこのままじゃ時間はなくなる一方だ。 さぁ、早く死のう。死んだら楽になれるんだ。 いや、むしろ頼むんだ。 君が死んでくれれば、その虚構に生きてた僕も死ぬんだ。 一歩踏み出した先が崖であっても、どんなに傷ついても、最後には地面が受け止めてくれるから落ち続ける事なんてない。 二人なら、庇いあう事だって出来る。 キョン。君と死ねるなら僕は本望さ。 決
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北海道・東北でのすれ違い報告 北海道,**青森 岩手,**宮城
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女児ズ短編小説・玲亜編 『すれ違い文化祭』 初ちゃんと喧嘩した。 喧嘩....というよりは、私が一方的に初ちゃんに怒ってそのまま別れたと言った方が正しいけど、ほぼ喧嘩別れしたも同然だった。 それは、金曜日のことだった。その日は、明日青空小で行われる文化祭の準備をしていて、いよいよ大詰めということもあり皆それぞれ忙しそうにしていた。 「玲亜ー、飾り付け終わったぜ。」 「ん、ありがとねみっちゃん。ちょうどお昼だし、皆も一旦休憩しよっか。」 普段は給食制の青空小だけど、文化祭の準備期間は給食を配る為のスペースが他のもので埋まるからということで生徒達はお弁当を持参することになっていた。私は勿論、初ちゃんと一緒にお弁当を食べるつもりでいた。 「初ちゃんもそろそろひと段落した頃かな?」 教室の飾り付け担当の私とは違い、初ちゃんは外で屋台のテント張りを担当していた。私はお弁当を持って、初ちゃんが居るであろうグラウンドまでやってきた。 「初ちゃん何処だろう.....?」 辺りを見回していると、少し先にあるベンチの前に初ちゃんの姿が見えた。茶髪にベージュ色のメッシュ、遠くからでもすぐに分かる。 「初ちゃん!一緒にお弁当........」 私は初ちゃんに駆け寄ろうとして、ハッと立ち止まった。初ちゃんの側に、多分下級生であろう女の子が何人か居る。 「え........」 そして、初ちゃんはその女の子達と一緒にベンチに座り、お弁当を食べ始めた。女の子達は初ちゃんを囲み、皆楽しそうに笑っている。初ちゃんも笑いながら、女の子達と何か話しているように見えた。 「...............何..........で........................」 私は、その場から一歩も動けなかった。昨日までは私と一緒にお昼ご飯食べてたのに、何で今日は他の人と一緒に居るの?何で「玲亜と約束があるから」って断らなかったの?何で、そんなに楽しそうに笑ってるの.............? 「.....................馬鹿...........っ」 お弁当を胸元に抱え、私は元来た道へ走り出した。あと一秒でもあの光景を見ていたら、ほんとにどうにかなりそうな気がして。 「馬鹿、馬鹿っ.....!!初ちゃんの馬鹿........っ!!!!」 何度も、何度もそう言いながら、私は廊下を走り抜ける。周りに居た人達は皆驚いて私を見るけど、それを全部振り切って私は走り続けた。 「あれ、玲亜ちゃん?どこ行くの?玲亜ちゃん!」 旭ちゃんの呼びかけすら無視し、教室の前も通り過ぎ、階段を上へと駆け上がって.......私は、いつもよく初ちゃんと一緒に来ている屋上に辿り着いた。 「はぁ......はぁ.............」 夢中で走ったせいか、さっきの大きなショックのせいか、全身の力が抜け、私はドアの前に座り込んでしまった。もう、お弁当を食べる気力も残っていない。 「......何で..........何でよ初ちゃん................」 初ちゃんの優しい顔が、声が、一緒に過ごした思い出が、どんどん遠ざかっていく。気がついたときには、私の頬は涙で濡れていた。 「........初ちゃん...................」 両手で顔を覆い、私は声を殺して泣いた。作業再開のチャイムが鳴るまで、ずっと。 「皆さん、明日はいよいよ文化祭です。思う存分、だけどハメを外しすぎず、楽しんで下さいね。」 「「「はーい!」」」 校長先生の校内スピーチが終わり、下校時間になった。準備の関係で何人かは教室に戻ってきていなくて、初ちゃんもその一人だった。 「玲亜、帰ろうぜ。」 「............」 「おい、玲亜ってば!」 「えっ?....あぁ、ごめん.......」 「どうしたんだよ、昼間っからボーッとしちゃってさ。」 みっちゃんが呆れたようにそう言いつつ、私に鞄を差し出してきた。 「ほら、早く帰ろうぜ。」 「うん..........」 鞄を背負い、教室を出る。 すると、今一番見たくない顔に偶然出会してしまった。 「あっ、玲亜にみっちゃん。お疲れ様。」 初ちゃんだ。何も知らないといった顔で此方に手を振っている。 「おう初!お疲れさん!途中まで一緒に帰るか?」 「うん、そうする。荷物だけ取ってくるね。」 そんな初ちゃんを見て、私は普段なら絶対言わないような言葉を口にした。 「........ごめん、私先に帰る。」 「え?」 私の言葉に、初ちゃんもみっちゃんも目を丸くしていた。 「何か用事でも思い出したか?」 「違う、初ちゃんと一緒が嫌なだけ。」 しまった、言い方を間違えた。そう思ったときには、もう遅かった。 「え....わ、私と帰るの、嫌......?」 「良いでしょ別に、初ちゃんには他の子が居るんだしさ。」 その時の私は、まるで何かに乗り移られたかのような気分だった。本当は言いたくもないような初ちゃんを傷つけるような言葉を、何度も何度もぶつけてしまっていた。 「他の子....?」 「とぼけないでよ!!さっき一緒にお昼ご飯食べてたじゃん!!」 「あ、あぁ、あの子達?あれはその.....」 「私なんか居なくても、初ちゃんには他にいっぱい女の子が居るんでしょ!?だったらその子達と一緒に帰れば良いじゃん!!私のことなんかほっといてさ!!!!」 「お、おい玲亜?何があったか知らないけど一回落ち着けって......」 「結局初ちゃんは女の子なら誰でも良いんだよね!!そうだよね!?下級生の女の子達に囲まれてヘラヘラして、バッカみたい!!!」 「い、いや、私はただ.....」 「うるさい!!!!言い訳なんか聞きたくない!!!!!もう初ちゃんとは絶交だよ!!!!!!二度と私に話しかけないで!!!!!!!!!!!」 勢い任せにそう叫び、私は走ってその場を後にした。みっちゃんの呼び声も振り切って、逃げるように走って家まで帰った。 ........................................ ..................... 「........はぁ.................」 お風呂に入った後でも、私の気分は晴れなかった。初ちゃんと喧嘩したことや、初ちゃんが他の女の子と一緒に居たこと以上に、初ちゃんにあんな酷いことを言ってしまった私自身に腹が立っていた。相手に弁解させる暇も与えず、こっちから一方的に責めて.....今思い返せば、本当に酷いことをしてしまった。 「................初ちゃん、怒ってるかな......それとも...........悲しんでるかな............」 あの後の初ちゃんの心情を考えただけで、息をすることすら苦しくなってしまう。私が同じ立場なら、明日の文化祭なんか行けなくなって当然だとも思った。これ以上何を考えても駄目だ、今日はもう寝よう。そう思った時だった。 『プルルルルルルル』 スマホに電話がかかってきた。まさか初ちゃんが?と思って画面を見ると、相手はみっちゃんだった。 「.......もしもし。」 『あ、玲亜か?悪いなこんな時間に。初とお前の間に何があったのかどうしても気になってさ。』 「ううん、大丈夫.......実は.........」 私は、みっちゃんに今日あったことを話した。いつもバカやってる単細胞で脳筋なみっちゃんだけど、こういう時に真剣に話を聞いてくれるところは私も素直に尊敬していた。 『...........なるほどなぁ。でもよ、一個気になることがあるんだけど聞いても良いか?』 「何.....?」 『お前さ、初と昼飯食うつもりだったって言ったよな?それ、初も同じだったのか?』 「どういうこと?」 『初もお前と同じで、一緒に昼飯食うつもりだったのかなってこと。前以って約束とかしてなかったのか?』 「......それは...........!」 思い返せば、私は初ちゃんに「今日一緒にお昼食べようね」なんて一言も言っていなかった。昨日まで何も言わずとも一緒に食べてたんだし、今日も当然のように一緒に食べると勝手に思い込んでいた。 「........約束、してない..........」 『だと思った。あの後初と一緒に帰ったんだけどよ、あいつ玲亜を怒らせるような心当たりは何もないって言ってたぜ?』 「........................」 『初が嘘吐くような奴じゃないのは、アタシも玲亜も知ってるだろ?そんな奴が玲亜にいきなり怒られるなんて、おかしい話だと思ったんだ。』 「.....じゃあ.......私の勝手な思い込みだったってこと?私が、全部悪い....ってことなの.....?」 『いやいや、何も全部悪いとは言ってねえよ。思い込みなのは確かだけどな。初がどういうつもりだったのかまではアタシも知らないけど、絶対何か事情があったんだと思うぜ。』 「....そう、だよね........私も、初ちゃんが何の理由もなしにあんなことするなんて思えないし......」 『ちゃんと分かってんじゃねえか。明日、ちゃんと自分で謝りなよ?』 「うん........そうする。ありがとう。」 電話を切り、ベッドに入りながら、私は明日初ちゃんにどう謝ろうか考えていた。 「昨日はごめんね........ううん、それじゃ足りないよね。それに、初ちゃんの話もちゃんと聞かなきゃ........」 そして、迎えた文化祭当日。楽しみにしていた一大イベントのはずなのに、私の心は不安でいっぱいだった。 「ちゃんと謝れるかな.........」 学校に来てすぐ、私は初ちゃんを探す。出来るだけ早く、文化祭が始まる前に謝らなきゃ。 だけど、初ちゃんの姿は何処にもなかった。チャイムが鳴っても教室に来ないから、私は先生に聞くことにした。 「音羽さんなら、今日は風邪でお休みするって親御さんから聞いたわよ?」 「えっ........!」 「音羽さん、準備で凄く頑張ってたものね。少し疲れが溜まっちゃってたのかしら。残念だけど、今年は不参加ね。」 「そんな................」 きっと、原因は疲れだけじゃない。私が昨日あんなことを言ったせいで、落ち込んで......それが原因で気が滅入ったに違いない。 「......私.........最低だ.............」 まただ。またネガティブな方向に物事を考えてしまう。こんな時、初ちゃんが居れば慰めてくれるのに。その頼みの綱すら、自分で切ってしまうなんて........ その後、文化祭は予定通り始まった。だけど、私は何処にも行く気になれず、隅の方で座って時間をやり過ごしていた。屋台から溢れる焼きそばの匂い、大音量で流れる賑やかな音楽、楽しそうに各箇所を回る皆.......今の私には、そのどれもが苦痛だった。 「こんなはずじゃなかったのに............」 もう帰っちゃおうかな、と思ったその時。 突然、ちょんちょんと誰かに肩を叩かれた。 「えっ?」 振り向くと、そこには文化祭のマスコットキャラを模した着ぐるみを着た人が立っていた。 「..........!.....、..........♪」 着ぐるみは何か身振り手振りをして、私に何か伝えようとしているように見えた。けど、今の私にはそれすら目障りだった。 「......あっち行ってよ。私は子どもじゃない、そんな着ぐるみじゃ喜べないよ。」 私がそう言っても、着ぐるみはおどけたような動きを続けていた。イライラした私はその場を立ち去り、何処か別の座れる場所を探した。 「......ここなら大丈夫かな。」 私はベンチを見つけ、そこに座った。.....そういえば、ここは昨日初ちゃんが座っていたベンチの近くだ。 「..........初ちゃん............」 また思い出してしまう。本当に、どうしてあんなことを言ってしまったんだろう。後悔ばかりが募っていく。 「あれ?あなたは.......」 すると、また誰かに声をかけられた。顔を上げると、そこに居たのは下級生の女の子達だった。 「あなた達.......」 私はその顔に見覚えがあった。昨日、初ちゃんとここで一緒にお弁当を食べていた女の子達だ。 「虹富先輩、ですよね?昨日音羽先輩が話してくれた人だ!」 「わぁ、先輩が言ってた通り可愛い人だなぁ♪」 「え、えっと.....初ちゃんの知り合い.....?」 「知り合いっていうか、昨日お手伝いしてくれたんですよ!」 「私達も屋台担当だったんですけど、手が空いたからって音羽先輩が手伝いに来てくれたんです♪」 初ちゃんが、そんなことを......... 「せっかくだからお昼ご飯もご一緒しませんかって誘って、その時に虹富先輩の話も聞いたんだよね。音羽先輩って好きな人居るんですか?って!」 「そうそう、そしたら虹富先輩の名前が出てきたんです!あの時の音羽先輩デレデレだったなぁ〜♪確かに、こんなに可愛い人なら分かるかも!」 「.........っ!」 そうだったんだ.......初ちゃんは私のことを忘れてたわけじゃなかったんだ。それに、下級生の皆を手伝っていたなんて....... 「私........私..................っ」 「えっ?に、虹富先輩?」 「......私、誤解してた.....ありがとう、ほんとのこと教えてくれて。」 「.....?ど、どう致しまして......?」 不思議そうに首を傾げる女の子達と別れ、私はまたその場を離れた。溢れそうになる涙を必死に堪え、一人きりになれそうな屋上へと足を運ぶ。 「...............」 みっちゃんの言った通りだった。初ちゃんが何の理由もなしに私を忘れるわけがない。それなのに、私は勝手に誤解して、酷いことばっかり言って....... 「.....う.......うぅ...........っ」 とうとう、私は耐えきれなくなった。一つ、また一つと、涙の滴が頰を伝っていく。 「初ちゃん......ごめんなさい...........ごめんなさい............っ!」 絞り出すような声で、私は何度もそう叫んだ。たとえ本人の耳に届かなくても、どうしても今謝りたくて。 「ぐす.....ひっぐ........」 両手じゃ拭い切れない程の涙を必死で拭っていると、横からスッと何かが伸びてきた。 「え.....?」 いつの間にか、さっきの着ぐるみが真横に立っていた。その手には、ハンカチが握られている。 「...................」 「........あなた.....誰なの?」 ハンカチを受け取り、涙を拭いながら私は尋ねる。 「......!.........!」 「身振り手振りじゃ分かんないよ......」 「...........。!」 着ぐるみは私の質問には答えようとせず、また変な踊りを始めた。 「誤魔化さないでよ!.....っていうか、ダンス下手くそすぎ.......」 今にも転びそうになりながら、着ぐるみは踊り続けた。そのダンスはどう見ても下手くそで、正直目も当てられないけど.......でも、見ているうちに何となくおかしくなってきて、私は思わず吹き出してしまった。 「....ぷっ、ふふ.....あははは!何その動き!」 「!.....♪..........♪」 「あははっ!それやめて、お腹痛い!あははははは!」 お腹を押さえて笑っていると、着ぐるみは突然踊るのをやめて私に近づいてきた。 「え....?な、何?」 「.......、.............」 着ぐるみは自分の顔を指差したかと思うと、両手を上下に動かしてみせた。 「......頭を取って、ってこと?」 「!」 私の答えに、着ぐるみはうんうんと頷く。私は意を決して、着ぐるみの頭を外してみた。 「玲亜。」 「..........!!!初......ちゃん.........!?」 着ぐるみの中に居たのは、風邪で休んでいるはずの初ちゃんだった。 「えっ、え!?何で!?」 「あはは、ごめんね。風邪で休みっていうのは嘘だよ。先生とみっちゃんと、あと後輩の皆にも協力して貰って、ちょっと玲亜を驚かせようと思って朝から仕込んでたんだ。」 「そんな......聞いてないよ..............」 予想外の展開に、私は思わずその場にへなへなとへたり込んでしまった。 「.........そっか、初ちゃんも私と仲直りしたくて.........」 「うん、でもただ行くのも勿体ないってみっちゃんが作戦を考えてくれたんだ。」 「あのバカぁ......余計なことばっかり頭回るんだから........」 「ご、ごめんね、私もあんなに怒って落ち込んでた玲亜にどう話しかけて良いか分からなくて......でも、誤解が解けたみたいで良かった。あ、それと後輩の皆がさっき言ってたことは本当だよ。」 「そうだったんだ.....初ちゃんはただお手伝いしてただけなんだね。変な言い掛かりつけて、酷いこともいっぱい言ってごめんなさい........」 「此方こそごめん、連絡のひとつくらいすれば良かったね。玲亜を悲しませたのは私の落ち度だよ.....」 「そんな、初ちゃんは何にも.....!.....その、私も.....初ちゃんと........初ちゃんと、仲直り.....したい.........」 「勿論だよ、玲亜!私もこれから、玲亜と前以上に仲良くなっていきたいな。」 「.......!うん!」 着ぐるみを脱いだ初ちゃんに抱きしめられ、私はすっかり元気になった。初ちゃんも、いつもと変わらない優しい笑顔で私を見つめていた。 「さて、じゃあそろそろ行こうか。」 「行くって?」 「文化祭、まだまだこれからでしょ?」 「!......えへへ、そうだね♪行こっ、初ちゃん!」 初ちゃんとしっかり手を繋ぎ、私はまた走り出した。まるで羽が生えたかのようにその足取りは軽やかで、さっきまでの暗い気分はすっかり晴れていた。 「まずはどこ行く?玲亜の行きたい場所なら何処にでもついて行くよ。」 「それじゃあねー........焼きそば!焼きそば食べに行きたい!」 文化祭はまだまだ終わらない。私と初ちゃんの文化祭は、これから始まるんだ。 FIN.
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すれ違い通信、成功? ◆Y47IPLbgaw 草が一帯に繁茂する草原。 緑一色に染まった中に佇む男が一人。 その風貌は、金色と赤色という目立つ色に髪を染め、耳には銀のピアスを開けている。 更には目つきは獣の様に鋭く、その姿だけで間違いなく常人なら目を合わせるのを避けるだろう。 「チッ、調子に乗りやがって」 彼の名前は国分寺多聞(男子八番〈こくぶんじ・たもん〉)。古風な名前と反比例し、強者かつ変人揃いの高校の中でも最強と呼び名が高い不良である。 それもそのはず。 彼の父は有名な『鬼の国分寺』と呼ばれる柔道家であるからだ。 それゆえか、父からは嫌という程柔道を教え込まれている。 (まぁその父さんも母さんも、今は何処かの外国だろうが) ちなみに多聞の母の職業は老古学者である。 といっても有名ではなく、父と息子二人揃ってその事について忘れていたが、高校一年のたまたま出かけたとある外国にて、 『なんかありそうだから私ここ掘るわ』 と旅行そっちのけで掘り始めたところが、なんと白亜紀の恐竜の化石があったのだ。 しかもその恐竜の化石は白亜紀の他の恐竜の生活が詳しく分かる物であり、そのまま発掘への参加を余儀なくされてしまったのだ。 そしてその後は父がとあるヨーロッパ在住のオリンピックに何度も優勝している柔道選手の講師に呼ばれてしまい、多聞は日本で一人暮らしを始めてしまう事になってしまったのだ。 それでそんな二人の有名な親を持つ多聞だったがある日の事、不良グループの数人が多聞に絡んできてしまったのが彼を大きく変えた。 校舎裏にまで呼びつけられて、文句を言われていた時までは黙っていた。 だが不良グループの一員が、多聞を金属バットで殴ったのが悪かった。 『テメェ…人の体を勝手に傷つけて、入院させたらどうしようと思わねぇのか!』 …結果論で行くと、逆に怒った多聞が不良達を病院送りにしてしまったのだ。 (しかし、多聞も頭部を8針縫う大怪我をしたのだが) それ以降、彼は一気に校内で恐れられてしまったのだった。 生まれつきの目つきもあってか、なんとなく一般生徒をチラ見しただけで、その生徒が泣いて謝ってきたり、 中にはプリントを落とした生徒を手伝おうと声をかけたら逃げられて、何故か呼ばれた風紀委員と勝負を繰り広げる羽目になったり、 噂を聞いた琴浦という同学年の男とも戦ったりと、勝負を挑むのならば、必ずと言っていい程それを受けた。 だがしかし、多聞は喧嘩は嫌いである。 父から教えてもらった柔道を、いざというとき以外そう簡単に喧嘩に使う事は、父に対して失礼と考えるからだ。 無論、立場を弱い人をいたぶるカツアゲなんてする奴なんてもっと嫌い。 夜に人に迷惑をかけて走り回る暴走族も、嫌っている。 だからこそ、彼はなるべく人を避ける為に髪をわざと派手に染め、耳のピアスも穴を開けなくて良い様なタイプを付け、外見だけで威嚇出来る様な物にしたのだった。 無論、学業をおろそかにする事なぞ出来ない。 『質実剛健』をモットーとした父に育てられた多聞からしたら、学業は必要不可欠である。 日々売られた喧嘩で消えた授業を、独学での勉強に費やしているおかげか、テストでは毎回半分以上を取り無遅刻無欠席。 ついでに趣味は動物と遊ぶ事と読書という、『そんな不良で大丈夫か』と言われてしまいそうな男である。 だからそんな不良らしからぬ男が、国分寺多聞なのである。 「蝶野…絶対に、お前は許さねェ…絶対に!」 だからこそ、多聞は怒りに燃えていた。 残虐性に溢れ、人の命を弄び、『生徒』を守るべき役目である教師の職業を捨てた蝶野杜夫を、心の底から憎んでいた。 (テメェが俺らがあがく姿を見たいなら、お前の言う通りあがいてやるよ。 でもな、蝶野。そのうちテメェの面を原型留めない程に殴ってやる) ―――だから、覚悟しとけよ。馬鹿ヤロー。 そう思いながら、蝶野の醜く笑う顔を思い浮かべながら、多聞は高々と、夜空へと拳を突き上げた。 反抗の意志を貫くが如く、夜空を突き破るかの様な拳だった。 「…てか、そうやったとはいえここに居ても何も始まんねぇし…動くとすっか」 そう呟いて高らかに上げた拳を静かに下ろし、多聞は派手な赤色と金色の髪を掻きながらも歩みを進めた。 ◇◆◇◆◇◆◇◆ 「だーれもいねぇな…」 と、少し歩いてみた多聞であったが、何故か生憎、周りには誰一人とも居ない。 いや、多聞としても誰かに会った瞬間に殺されるなぞ決意を固めた直後としては、あまりにも腑抜けすぎるのだが。 (ま、流石にそんなアホみてぇな事はねぇだろ…と信じたいが) そんな風になったら、ギャグ以外の他でもない。 ―――もしそれで死んだら、安佐蔵と最強堂から笑われる覚悟しなきゃな。 と一人で勝手に思いつつ、ふと苦笑いが浮かんだ。 「しかし、こうも誰も居ないのもおかしいよな…俺、呪われてるのかなぁ」 「多分そうじゃない?ほら、キミ、案外馬鹿みたいだし…」 「そうだよなぁ…俺、結構頑張ってると思うんだけど」 「ていうかさ、もしかたらそんな風に殺し合いに反抗しようなんて、キミだけなんじゃない」 「そんな事言うなよ…大体周りには俺しか…ふぁ?」 妙に抜けた声を出してしまった。 今確実に自分は誰かと話していた。 気付くのが遅い多聞も多聞だが、目を見開いて、誰なのかを知る為に、後ろを振り向いた。 「やっほー」 そして振り向いた多聞のすぐそばには、髪を纏めてお団子頭にしている問芒操(女子十三番〈といのぎ・みさお〉)の姿があった。 やけに近かったので、多聞は少し仰け反ったが、睨む様にして、突如として自らと会話した操へと問い掛けた。 「問芒…どういうつもりだ?」 「どーゆーつもりだって…尾行?(笑)」 「…わざわざ【かっこわらい】って言うヤツ、初めて見たぞ…」 真剣に聞いた所為でか、操のやけに軽い答えに頭を抱えて突っ込む多聞。 一方の操は、どこからか取り出したかも分からない様な菓子パンを貪る。 「はむはむ…あー、一応言っとくけどさ。殺し合いなんて馬鹿馬鹿しくてやる気ないから。キミは?」 「お前と同じだ。生憎だが、あんなオッサンにどうこうされる訳にはいかねェ…」 「はむはむ…かっこいーじゃん。多聞クン」 「名前、分かってたのか」 「勿論!その目立つ頭してりゃ、誰だってキミって分かるよ」 「っせぇよ」とやや拗ねながらも、多聞は菓子パンを食べおわった問芒の瞳を改めて見る。 純粋な瞳が、こちらに敵意を無しに向けられている。 多聞には分かる。 これまで幾度と喧嘩を受け付ける度に相手に共通していた、人それぞれの『敵意』が。 そして彼が今現在一番憎む蝶野杜夫からは、それが多く感じられた。 ただ、憎悪とも殺意とも読み取れない。 なんとも言いづらい、『敵意』が自分達に向けられていたのだから。 (と、なると…一応問芒には敵意は無いって事にしとっか…) 「問芒、お前これからの予定無いなら、ちょっと付き合わないか?」 「え、別に良いけど…何処に行くの?」 「あ?何処に…って。何処にも行かねぇで行動をだな…」 「ダーメ!それはダメだよ!多聞クン!地図ってものがあるんだからさ」 と、操がまたこれも何処から出したか分からない様に、地図を取り出す。 丁寧に折り畳まれている地図を開くと、問芒は指でなぞりながら自分達の居る場所を探す。 「…えーと…さっき操が来た道を考えると、ここB-7らしいね… ここから近い施設は多いけど一番良いのは診療所かな。多聞クンはどうかな…?」 「お前すげぇな…地図とか何処で見つけたんだ?」 「最初からディパックの中にあったよ?…もしかして見てないの」 「なっ!?ち、違う!み、見たんだからな!ただ、小さくて気付かなかっただけだ!」 「嘘バレバレじゃん…」と操は心の中で静かにそう思った。 一方の多聞はまだやけにテンパっているが、操としてはどうでもいい。 「とにかく!多聞クンが提案したのが『同行』なら、操は『行動』の提案があるはず!そのまま慌ててるんなら、れっつらごー!」 「や、やめろ!襟を掴むな!くそ、馬鹿力にも程があるだろお前ぇぇぇ!」 ◇◆◇◆◇◆◇◆ ごめんね多聞クン。 操、一つだけまだキミに言ってない事があるんだ。 あのね、操ね。 本当はね、人間じゃないんだよ。 色々あって他人に体を改造された、改造人間。 だから、最初は『人間』じゃないから、キミ達普通の『人間』を殺してもいいかなー、って思ったんだ。 クラスメイトでも、正当防衛は成立するかな、なんて考えて。 …だからさ、キミを最初、殺そうとしたんだよ? 操に渡された武器がアイスピックでね。 後ろ姿を見つけた時は、油断した隙に殺そうって思った。 でも、無理だった。 ニーソに隠しておいたそれを出す直前に、キミがじろっと操を見たんだよ? そしてそれは、操を信じきった目をしてたんだよ。 そこでね…操、戸惑ったんだ。 でも、やっぱりそのアイスピックを取り出そうとした瞬間に、操気付いたの。 ―――あぁ、操…まだ人間らしいじゃん。 …だからさ、だからさ多聞クン。 操はキミに助けられたんだよ? 操はキミが見てくれたから、人間らしさを保てたんだよ? だからね、多聞クン。 操も、君と一緒に行かせてほしいんだ。 だから、それがせめてもの操に出来ること。 だからどうか見ていて。 キミを信じる、操の瞳を。 【B-7 草原/一日目・深夜】 【男子八番:国分寺多聞】 【1:俺(ら) 2:お前(ら) 3:あいつ(ら)、○○(名字呼び捨て)】 [状態]:健康、蝶野に対しての怒り [装備]: [道具]:基本支給品、不明支給品 [思考・状況] 基本思考: 蝶野杜夫を殴る為に行動する 0:…もう抵抗は諦めた 1:戦闘はなるべくしたくない。 2:よかった、荷物の中身確認してない事バレてない。HAHAHA。 3:…どうせなら診療所で隠れて見るか… 【女子十三番:問芒操】 【1:操(達) 2:君() 3:皆、○○クン(下の名前)】 [状態]:健康 [装備]:アイスピック(ニーソの下に隠したまま) [道具]:基本支給品 [思考・状況] 基本思考: 国分寺多聞とともに行く。 0:一応改造された体だけど、大丈夫かな。 1:診療所だったら薬あるかもしれないしね~♪ 2:…多聞クン、嘘付くの下手すぎ。 投下順で読む Back 機獣咆哮 Next あたしが殺した(前編) 時系列順で読む Back 汚れなき殺意 Next 機獣咆哮 GAME START 国分寺多聞 025 心のかたち人のかたち GAME START 問芒操 025 心のかたち人のかたち
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そして、すれ違い・・・ 【投稿日 2005/12/29】 カテゴリー-笹荻 夢を見つづけられるなら私はずっと眠っている方を選ぶ この言葉に、心底共感した時期があった。 現実で許されないなら、悪夢を見続けたほうがいい。 ・・・きっと、現実で私が許されることはないから。 「ちわー。」 「あ、こんにちは、笹原さん。・・・ごめんなさいね。」 笹原が現視研につくと、大野がコスプレを広げててんやわんやだった。 「や、いいよ。」 そういって苦笑いすると、空いてる席に座る。 「夏コミに着る衣装?」 「そうですねー。どっちにしようか悩んでるのがあるんですけどね・・・。」 「ふーん。」 そういってそのコスチュームの方を見る笹原。 「FFかー。」 「あ、わかります?」 「そりゃね。中学のときやったの思い出すなあ。」 大野が広げていたコスはFF第7作目のヒロインの衣装だ。 発売からもうすでに9年近くが経過していた。 「今年、AC出ましたからねえ。」 「あー、そっか。でもこれは原作バージョンでしょ?」 「そうですねえ。」 ACとは、その作品の映像作品。今年発売され、話題を誘った。 「これいいんじゃない?話題性もあるしさ。」 「そうですか?じゃ、そうしようかな・・・。」 「あはは・・・。ま、俺の個人的な意見だけども。」 そういって、笹原はポケットに入っていた携帯ゲーム機を取り出す。 「あ、何かやってるんですか?」 「いやー、古いゲームなんだけどね。ドラクエの3を。」 「そういえば、一番好きなゲームって言ってましたねえ。」 ドラクエといえば、知らぬものはいないほどの国民的RPGだ。 3はその中でも完成度とストーリーともに評価が高い。 はじめファミコンで出たが、年を経てスーファミ、GBCと移植された。 「中々就職も決まらんしねえ。気晴らしにやるにはいい感じだよ。」 「へえ。ドラクエは確かに面白いですからねえ。」 「大野さんは何が好きなんだっけ。」 「何でもやりますよお。好みのキャラがいれば・・・。」 にっこり笑う大野。 「たとえば?」 「FFは全部やりましたねえ。一人はいるんですよ。好みのキャラが。」 「あ、そういえばそうだ。」 「後はトライエンブレムのとか、ポポロとか。」 「ポポロ・・・。あ、ガミガミ。」 「そうそう!ガミガミさんは最高ですねえ~。」 大野はうれしそうに語る。 「やっぱ結構やってるんだねえ。」 「コスプレしたくなることも多いですしねえ。」 ガチャ。 扉が開く。荻上だ。 「こんにちは。」 「やあ、こんにちは。」 「こんにちはー。」 荻上は入ってくるなり、怪訝な表情を見せた。 「・・・またですか。」 「ごめんなさいねえ。」 「いえ。いいんですけど・・・。」 笹原の顔を見て、少し気まずそうに顔をそらす。 「あはは・・・。」 笹原も同様。この前の件がまだ響いているよう。 (むむ・・・。この反応は・・・。) 口をへの字にして二人の反応をうかがう大野。 (まさかとは思いますが・・・。) 咲が言ったことを思い出した。 『あの二人、気にしあってるように見えない?』 (あの時は否定してしまったけど・・・。まさか??) しかし、大野には荻上が笹×斑を妄想してることを知っていた。 だが、あの発言からは、妙な感覚は受けてはいた。妙な頑なさを。 『私がオタクと・・・!』 (ふーむ?) 二人は気まずそうに座っていた。お互いの視線を合わせないように。 「荻上さんは、RPGやりますか?」 大野は気まずそうな二人の雰囲気を察して、話題を振る。 「・・・まあ、それなりに。」 「へーえ。なにが好きですか?」 「テイルズはシリーズ全て良いですよね・・・。」 「確かに!」 空気を明るくしようとわざと明るくする大野。 「それも良かったですけど・・・。一番好きなのはヴァルキリーです。」 「ヴァルキリーですか!あれもいいですねえ・・・。」 ヴァルキリープロファイリング。 トライエンブレム会心の名作。 ストーリー、システム、ヴィジュアル、どれもPS最高峰といっていいだろう。 癖があるから、万人に受けるとはいえないが。 「そうねー。ヴァルキリーはいいゲームだよね。」 ようやく笹原が言葉を挟む。 「・・・ですね。」 それに答える荻上。まだどこかぎこちない。 「俺歯科とか、元帥とか、ヴァイオレンスアームズとか、 いいRPGはPSで出尽くしちゃってる感はあるよね。」 「まあ、しょうがないですよね。ネタ切れ感はありますし。 たまにPS2でもいいの出ますけど。」 「そうですね・・・。私と魔王とか、好きですよ。」 「PS2は続編が多くて、それも面白くないってよく言われてるけど、 たまにある当たりは、すごくいいよね。」 「田中さんがサガのリメイクが面白かったって言ってましたよ。」 「あれはいいリメイクだったね。ヴィジュアルで文句がありそうだけど。」 「私としては、ラジストには・・・。ちょっと・・・。」 「ああ、あれはちょっといただけませんでしたねえ。」 そんな感じでわいわいRPG談義が続いた。 「あ、ちょっと電話しないと。」 そういって、笹原は席を立ち、外に出て行く。 「・・・就活のことですかね?」 「まあ、そうでしょうねえ。」 荻上は、出て行った扉の方を見た。 「やっぱ、迷惑ですよね。」 「え?売り子頼むことですか?」 「・・・ええ。」 表情には見せないが、その言葉の端に落ち込みが見えた。 「笹原さんがいいって言ってるんだから、断るのもあれでしょう?」 「まあ、そうなんですけど・・・。」 「だったらいいじゃないですか。」 「まあ、そうなんですけど・・・。」 (むむむ?やはりそうなのかしら?カシラ?) 荻上の表情は相変わらずだ。しかし、なにか感じられる物はあった。 「あ!」 少しの間の後、大野は声を上げた。 「・・・どうしたすか?」 「田中さんに電話しなきゃいけなかったんですよ・・・。 やばいー。怒られちゃうー。ちょっとごめんなさいね。」 そういって、大野はあせった顔で外に出て行った。 「・・・。」 一人残った荻上は、少し思いをはせた。 (・・・笹原さんは・・・。何でこんなにも・・・。) (手助けをしてくれるんだろう?) そんなことを思いながら、ボーっとする。 テーブルの上にある携帯ゲーム機が目に入る。 (あの色は・・・。笹原さんのだ。) 刺さっているソフトはドラクエ3。 (ドラクエかー。本当に好きなんだなー。そいや、ドラクエといえば、 よく貸し借りがあったなあ。小学生ん時だけども。) そう考え、ゲーム機に手を伸ばす。 (そんで、入ってるセーブに女の子の名前が入ってたって、 騒いでる男子いたなあ。貸した方は災難だぁ・・・。) その携帯ゲーム機を目の前にして。 この中に。笹原の本意が入ってるのかもしれない。 (小学生じゃあるまいし・・・。周りの人の名前とか付けるか?) 顔を少し赤くして、首を振る。 (じゃ、つけてみるか?いやいや。人のもんだぞ? でもちょっとくらい・・・。いやいや・・・。) その問答が長い間続いた。 ガチャ。 心臓が跳ね上がる荻上。つい、ゲーム機を自分のかばんに入れてしまった。 「いやー、参ったよ、ちょっと急がなくちゃいけなくなっちゃった。」 そういって、笹原が入ってきた。苦笑いをした後、かばんを持つ。 「それじゃあね、荻上さん。・・・どうかした?」 「い、いえ!また!」 荻上の顔から出ている冷や汗。それに気付いた笹原。 「・・・?そう?うん、また。」 ゲーム機のことを忘れたまま、笹原は出て行った。 (返しそびれた・・・・!これじゃ泥棒だ・・・!) そう思ったときには、遅かった。 家に帰った荻上は、そのゲーム機を持ってきてしまっていた。 「どうすべかな・・・。」 テーブルにのせたゲーム機。それを見つめる。 「今頃気付いてるよな・・・。」 そうはいっても、今日とりに来ることはないだろう。 「明日、それとなく戻しとくべ・・・。」 その前に。やりたいことがあった。 電源を入れる。 (わりいとは思うけど・・・。) 出てきたデータには、カンジ、と入っていた。 (自分の名前入れてる・・・。まさか・・・。) データを選ぶ。城に移る。 『おお、カンジよ、よく戻った!』 出てきた仲間の名前は。 盗賊ハルノブ、武道家サキ、賢者マコト、だった。 「・・・。そっか。」 それを見て電源を切る。 「明日の朝、ちゃんと返しとこ。」 残念なような、ほっとしたような顔をした後、 寝るためにベッドにもぐりこんだ。 「あ、あった。」 翌日昼、現視研部室内。笹原は来るなり、自分のゲーム機を見つけた。 「やっぱここだったかー。よかったよかった。」 「なんだ、お前のだったのかよ。」 飯を食いに来てる斑目がいった。他には誰もいない。 「あはは・・・。昨日ばたばたして出てっちゃったから。」 「ドラクエ3か?相変わらず好きだな。」 「まあ、こういうときは好きなのをやるのが一番かと。」 「まあなあ。で、もうとっくにクリアはしてんだろ?」 「はじめなおしたんですけどね。クリアしちゃって。 いま、いろんな職業育てて遊んでます。」 「ふーん。」 笹原は、家に帰ってドラクエ3をした。 「久々にエンディングでも見ようかな・・・。」 レベルアップ中のサキ、マコト、ハルノブをはずし、 元のメンバーであるキャラに入れ替えようと、酒場へ行く。 「クリアメンバーって転職できない性質なんだよね・・・。」 そう独り言を言って、メンバーを入れ替えた。 戦士ソウイチ、レベル99。 僧侶カナコ、レベル99。 そして。 賢者チカ、レベル99。 「初めてやったときからパーティはこれなんだよなあ。」 笹原にとって、特に魔法使いと賢者はお気に入りだった。 「やっぱ、魔法使いから賢者への転職が王道だよね。 昔から・・・。この職には好きな名前付けてたけど。 このこと知られたらめちゃくちゃ恥ずかしいな・・・。 ま、誰も見てないだろうけど。」 笹原がこのデータを始める前にした会話。 「ドラクエ3でいうと、先輩は盗賊っすよね。」 「え、俺盗賊?じゃあ、春日部さんは?」 「武道家です。」 「おお、確かに。」 「高坂君は遊び人から賢者って感じですよ。」 「ばっちりだ。」 「じゃ、田中は戦士で、大野さんが僧侶?」 「まあ、そういう感じですかね?」 「ふーん。・・・荻上さんは?」 「魔法使いかなあ。」 「久我山は?」 「残ってるので言えば商人?」 「トルネコかよ!じゃあ、お前は?」 「勇者?」 「ふざけんな!・・・じゃ、朽木君は?」 「えーっと・・・。」 「もう、残ってないな。」